会社の本店を移転したときには、まずはじめに、管轄の法務局に対して「本店移転の登記」が必要となります。
この登記が完了すると、はじめて公的に本店所在地が変更されたことになり、登記事項証明書に記載されることになります。
その登記自体は、司法書士などの専門家に依頼することにより、早ければ1週間から10日ほどで完了しますが、その後にしなければならない手続きが、たくさんあります。
今回は 、いろいろと手間のかかる「本店移転の登記」が終わった後の手続きについて解説します。
関連記事
公的機関(役所など)への手続き
税務署への手続き
法務局の登記が完了したら、下記の届出書を所轄の税務署に、提出しなければなりません。
具体的には、記載済みの届出書を、税務署に持参するか、郵送により提出します。
e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用してオンラインでの申請も可能。
届出書類
- 異動届出書
(法人税-変更後速やかに) - 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
(源泉所得税-移転の事実があった日から1か月以内)
届出書類リンク【国税庁HP】
異動届出書(法人税)
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
添付書類
組織変更などが同時にある場合には、定款等の写しが必要な場合があります。
(異動事項の内容確認のため)
都道府県税事務所への手続き
税務署のほかに、各都道府県税事務所に対して、速やかに『法人異動届出』を提出する必要があります。
届出の様式などは、各都道府県のウェブサイトにて入手できます。
(法人異動届出+○○県で検索)
具体的には、記載済みの『法人異動届出書』を、所轄の都道府県税事務所に持参するか、郵送により提出します。
※ eLTAX(地方税ポータルシステム)を利用してオンラインでの申請も可能。
届出書類
- 法人異動届出書
添付書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
※ 税務署への届出とは異なり、登記事項証明書の添付が必須です。(東京都の場合にはコピーで可)
市役所などへの手続き
各市町村に対しても、速やかに『法人異動届出』を提出する必要があります。
ただし、特別区(東京23区)につきましては、区役所への届出は不要です。
こちらも、届出の様式などは、各市町村のウェブサイトにて入手できます。
(法人異動届出+○○市でネット検索して下さい)
具体的には、記載済みの『法人異動届出書』を、市役所などに持参するか、郵送により提出します。
※ eLTAX(地方税ポータルシステム)を利用してオンラインでの申請も可能。
届出書類
- 法人異動届出書
添付書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
※ 税務署への届出とは異なり、登記事項証明書の添付が必要です。(市区町村によってはコピーで可)
年金事務所への手続き
日本年金事務所に対して、原則として5日以内に『健康保険・厚生年金保険 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届』 を提出する必要があります。
なお「同一年金事務所管内で事業所の所在地を変更する場合」と「管外へ事業所の所在地を変更する場合」とで提出する届書の記入内容が異なります。
具体的には、記載済みの『適用事業所名称/所在地変更(訂正)届』を、年金事務所に持参するか、郵送により提出します。
※ e-Gov(政府の電子申請システム)を利用してオンラインでの申請も可能。
届出書類
- 適用事業所名称/所在地変更(訂正)届
添付書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)のコピー
労働基準監督署への手続き
労働保険のうち労災保険については、原則として10日以内に『労働保険名称、所在地等変更届』を、所轄の労働基準監督署に対して提出する必要があります。
※ e-Gov(政府の電子申請システム)を利用してオンラインでの申請も可能。
困ったことに、この届出書は4枚複写式の特殊用紙なので、ウェブサイトでのダウンロード入手は一切できません(怒)
郵送でも受け付けてくれますが、その場合でも先に用紙をもらいに、労働基準監督署の窓口へ直接取りに行かなければなりません。
2度も行くのは手間なので、労働基準監督署の窓口で書類を入手して、その場で記入して提出することをオススメします。
その際には、会社印を必ず持参するほか、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の提示を求められますので、あわせて持参する必要があります。
届出書類
- 労働保険名称、所在地等変更届
必要書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
公共職業安定所(ハローワーク)への手続き
労働保険のうち雇用保険については、原則として10日以内に『雇用保険事業主事業所各種変更届』を、公共職業安定所(ハローワーク)に対して提出する必要があります。
※ e-Gov(政府の電子申請システム)を利用してオンラインでの申請も可能。
『雇用保険事業主事業所各種変更届』は、公共職業安定所(ハローワーク)の窓口でもらうか、下記のハローワークのウェブサイトからダウンロードすることができます。
注意
この届出には、労働基準監督署で交付される『労働保険名称、所在地等変更届の事業主控』が必要なため、ハローワークへの提出前に、必ず労働基準監督署への手続きを事前に済ませておく必要があります。
届出書類
- 雇用保険事業主事業所各種変更届
必要書類
- 労働保険名称、所在地等変更届(労働基準監督署に届出済のもの)
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
個人住民税(市区町村)の手続き
会社は、一部の例外を除き、役員を含む全従業員の個人住民税を、給料から天引き(特別徴収)し各市町村へ納付しているため、 納付している全市区町村へ名称変更届を提出する必要あります。
届出用紙は、毎年届く各市区町村からの封筒に同封してある『給与支払者(特別徴収義務者)の所在地・名称変更届出書』を使用するほか、
最近では、ほとんどの各市区町村の Web サイトからダウンロードできるようになっています。
(給与支払者(特別徴収義務者)の所在地・名称変更届出書+○○市で検索)
届出書類
- 特別徴収義務者の所在地・名称等変更届出書
必要書類
- 市区町村によっては、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)のコピー
役所以外の手続き
取引金融機関への手続き
銀行などの取引金融機関への届出が必要となります。
金融機関によって必要な書類は異なりますが、一般的に下記の書類が必要となります。
必要なもの
- 通帳
- キャッシュカード
- 取引口座の届出印
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の原本
- 法人印鑑証明書の原本
- 本人確認書類
リース会社やクレジットカード会社への手続き
法人名義のクレジットカードを持っている場合や、リース会社との取引がある場合には、変更届を提出する必要があります。
リース会社やクレジットカード会社によって必要な書類が異なりますが、一般的に下記の書類が必要となります。
必要書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の原本
- 法人印鑑証明書の原本
公共料金などの手続き
公共料金(電話、電気、ガス、水道)のほか、インターネットプロバイダー・携帯電話・ケーブルテレビなどの契約はある場合には、変更届を提出する必要があります。
料金を銀行口座引き落としで支払っている場合には、口座情報変更の手続きが、別途必要な場合もありますので、 お客様センターなどに直接確認しましょう。
一般的に必要となる書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 本人確認書類
保険会社への手続き
会社名義で、生命保険や火災保険のほか、自動車保険などを契約している場合には、契約内容の変更手続きが必要となります。
保険会社のホームページなどから必要な書類を請求し、郵送された書類を記入して提出することとなります。
必要書類は、保険会社によって異なりますが、一般的に下記の書類が必要となります。
一般的に必要となる書類
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 本人確認書類
不動産の借主や管理会社への手続き
本店以外の事務所や店舗を賃貸契約している場合には、賃貸借契約書の内容が変わることになりますので、借主や管理会社へ連絡した方がよいでしょう。
本店住所を変更しても、必ずしも再契約が必要になることはありませんが、場合によっては覚書を締結することもあります。
許認可を受けている場合
会社の事業が「許可・認可・登録・免許・指定・届出・認証」を関係役所より受けている場合には、所定の変更届が必要です。
許認可の種類によって定められた様式があり、登記事項証明書などの必要書類や手数料が異なります。
また、届出・申請期限もありますので、事前に許認可を受けた先の役所へ確認する必要があります。
取引先への通知
取引先が発行する請求書や納品書の郵送先が変わることになるため、本店住所の変更を知らせるのが、一般的なマナーです。
挨拶状として郵送で送るか、FAXやメールにてお知らせすると良いでしょう。
その他の社内・社外で必要なこと
本店所在地が変わると、 社内・社外で使用している色々なものも変更する必要があります。
変更に費用や時間がかかりますので、事前に確認しておきましょう。
- 全員の名刺
- 社用封筒などの印刷物
- 会社のパンフレット
- 社内伝票(納品書・請求書・見積書・領収証等)や社内書類
- 会社のゴム印(社判)
- 会社のウェブサイトの住所変更
- 各種インターネットサービスなどの住所変更
新型コロナウィルスの影響で、在宅勤務が増えたことにより、事務所を縮小して移転した顧問先が多くあります。
ところが、このところコロナ終息を見据えて、再び事務所を増床して移転を検討しているとの相談もこのところ増えています。
経営者の方からお話を聞くと「社内のコミュニケーションが取りづらい」「優秀な社員採用のために必要」「対面営業のニーズが増えている」とのこと。
また、社内からも「コミュニケーションが取りづらい」「仕事のオン・オフの切り替えがしにくい」などの話もあるようで・・・
従業員が多い会社では、オフィス家賃が低い今のうちに、将来のコストを考えて移転の検討を始めているようです。
投稿者プロフィール
- 盛永崇也(東京の神田で開業している税理士/行政書士事務所の代表)
「税務相談/税務顧問や経理経営支援/法人申告・確定申告・給付金申請・相続手続の代行/法人設立や廃業支援や代行」など、法人個人を問わず、お金にまつわる様々なサポートをさせて頂いております。