亡くなられた方の財産を相続(名義変更)する手続きは、我々専門家であっても多くの書類と時間が必要になります。
そんな中、遺言書のない一般的な相続手続きの際に必ず必要となるのが、法定相続人を特定するための書類(被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本)です。
具体的には、本籍地の自治体にて入手するのですが、1通につき450円から750円もかかり、多くの部数が必要な場合には、送料別の実費だけで、1万円以上の費用がかかることもよくあります。
そんな中、相続登記を促進することを目的として、法務省にて平成29年5月から「法定相続情報証明制度」というものがスタートしました。
(出典)法務省ウェブサイトより
法定相続情報証明制度とは
ざっくり言うと、この「法定相続情報証明制度」とは、銀行口座手続きや不動産の相続登記のほかに、相続税の申告の際に必要な戸籍謄本などの書類の原本の束が1枚の紙にまとまるだけでなく、その証明書類が何枚でも無料で発行できるという制度です。
ただし、被相続人や相続人が日本国籍を有していない場合などの場合には、この制度は利用することはできません。
手数料
この法定相続情報の手数料は「無料」です。
ただし、申出の際に必要な戸籍謄本は所定の手数料が必要となるほか、郵送にて手続きをする場合には郵便切手代が必要となります。
なお、税理士などの専門家に依頼する場合には、代行手数料などの費用もかかります。
こんな時に便利
- 亡くなられた方の銀行や証券会社などがたくさんある
- 亡くなられた方の不動産の名義変更(相続登記)が必要
- 亡くなられた方の相続税の申告は必要
メリット
本来は相続登記を促進する目的の制度ですが、下記のようなメリットもあります。
- 相続人を特定するための書類の原本を1部ずつ入手するだけですむので、書類入手の費用が安く済む
- 限られた部数の原本書類を銀行などに使い回すことなく、同時に手続きが可能
- 出生から死亡までの戸籍謄本が、きちんと集められているか法務局が無料で確認してくれる
- 他に相続人がいないか法務局が無料で確認し証明してくれる
法定相続情報一覧図を入手できる方
法定相続情報一覧図を入手できるのは、原則として相続人となりますが、税理士・弁護士・司法書士・行政書士や親族などが依頼を受けて入手することができます。
手続きの仕方
【STEP1】必要書類の収集
手続きをするにあたって、まずは下記の必要書類の収集します。
書類名 | 入手先 |
---|---|
被相続⼈(亡くなられた⽅)の⼾除籍謄本 ・出⽣から亡くなられるまでの連続した⼾籍謄本及び除籍謄本 | 被相続⼈の本籍地の市区町村役場 |
被相続⼈(亡くなられた⽅)の住⺠票の除票 ・被相続⼈の住⺠票の除票 | 被相続⼈の最後の住所地の市区町村役場 |
相続⼈の⼾籍謄抄本 ・相続⼈全員の現在の⼾籍謄本⼜は抄本 | 各相続⼈の本籍地の市区町村役場 |
申出⼈(相続⼈の代表)の⽒名・住所を確認することができる公的書類 下記書類のいずれか1つ ・運転免許証のコピー ・マイナンバーカードの表⾯のコピー ・住⺠票記載事項証明書(住⺠票の写し)など | - |
(法定相続情報⼀覧図に相続⼈の住所を記載する場合) 各相続⼈の住⺠票記載事項証明書(住⺠票の写し) | 各相続⼈の住所地の市区町村役場 |
【STEP2】法定相続情報一覧図の作成
入手した必要書類に基づいて、被相続人(亡くなられた方)と相続人を一覧にした一覧図をパソコンにて作成し、印刷します。
様式は、下記の法務局ウェブサイトを確認してください。
主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例(法務局)
(注) 法務局様式の下枠「※法定相続情報一覧図は,A4縦の用紙を使用して~」は削除して印刷してください。
(出典)法務省ウェブサイトより
【STEP3】申出書の記入
法務局に提出する「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」に必要事項を記入します。
申出書様式(WORD形式)[(Word形式 : 24KB]:法務局ウェブサイト
申出書の記入例 [PDF形式 : 262KB] :法務局ウェブサイト
【STEP4】法務局へ申出(提出)
STEP1~3の書類を登記所に提出します。
申出をすることができる登記所は、下記のいずれかを管轄する登記所になります。
- 被相続人の本籍地(死亡時の本籍)
- 被相続人の最後の住所地
- 申出人の住所地
- 被相続人名義の不動産の所在地
管轄の登記所は、法務局のウェブサイトなどで確認してください。
管轄登記所の一覧(東京法務局)
提出は、登記所の窓口にて提出する方法と郵送により提出する方法があります。
登記所の窓口にて提出する場合
登記所の窓口にて提出する場合には、書類を不備がないかどうか簡単にチェックしてもらえます。
登記所によって異なりますが、申出(提出)から数日から1週間程度で法定相続情報を発行してもらえます。
窓口にて受け取りをする際には、受取人の本人確認のため申出書に押印した印鑑が必要となります。
郵送にて提出する場合
登記所に郵送して提出する場合には、上記書類とともに、「返信用の封筒及び郵便切手」を同封して管轄の登記所の不動産登記部門へ郵送します。
書留などで返信を希望する場合には、その分の切手が必要となりますのでご注意ください。
法定相続情報一覧図の再交付
法定相続情報一覧図は5年間(申出日の翌年から起算)、登記所にて保存されます。
従って、その間は再交付も可能です。
法定相続情報証明制度の利用範囲の拡大(相続税申告に利用可能に)
平成30年4月1日より法定相続情報一覧図に相続人に関する情報として、「被相続人との続柄」を記載することができるようになりました。
これと同時に、相続税の申告書を税務署に提出する場合に添付義務があった、従来の「被相続人の戸籍謄本の原本」のほかに、この「続柄を記載した法定相続情報一覧図」又は「戸籍又は一覧図のコピー」でも可能となりました。
この記事は、執筆日現在の法令などに基づくものであり、その後の法改正によるアップデートは原則としてしておりません。
昨年末ぐらいまでは、この「法定相続情報」を銀行窓口の女性に提出すると「この書類は?上司にちょっと確認してきます」と言われたりもしましたが、この制度が始まり1年を経過したので、最近では戸惑うことなく受け付けてくれるようになりました。
先日行ったある信用金庫の窓口女性は「この書類があると戸籍謄本コピーをたくさん取らなくて良いだけでなく、相続人の確認も簡単なので助かります~」と本音をボッソっと。
銀行や証券会社では、亡くなられた方の相続人はこの人達ですよ!と国(法務局)が証明してくれた言わば「お墨付きの書類」なので大変役に立っている模様です。
その代わり、法務局の窓口に行くと、あまり歓迎されていない雰囲気が…
投稿者プロフィール
- 盛永崇也(東京の神田で開業している税理士/行政書士事務所の代表)
「税務相談/税務顧問や経理経営支援/法人申告・確定申告・給付金申請・相続手続の代行/法人設立や廃業支援や代行」など、法人個人を問わず、お金にまつわる様々なサポートをさせて頂いております。