2018年10月に、国税庁が全国の法人税と源泉所得税などの申告状況の最新概要を公表しました。
全国に存在しているすべての法人を公表対象としており、会社が税務署にきちんと申告した数字によるものなので、他の統計調査結果よりも、信憑性が一番高いものでもあります。
そんな発表資料の概要を、なるべくわかりやすく税理士が解説します。
平成29事務年度 法人税等の申告(課税)事績概要
平成29事務年度とは
始めから細かいところになりますが、国税庁が発表する「事務年度」とは、一般的な法人の「事業年度」とは違います。
具体的には、今回の公表対象である平成29事務年度とは、「平成29年4月1日から平成30年3月31日までに事業年度が終了した法人のうち国税庁の事務年度末日である平成30年7月末までに申告書の提出があった法人」ということになります。
今回の公表資料
今回公表資料のオリジナルを詳しく見たい方は、国税庁の公式ウェブサイトに掲載されています。
東京国税局(全国版)
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2018/hojin_shinkoku/pdf/hojin_shinkoku.pdf
さらに、下記の2つの地方国税局のみですが、各県別の概要を公表しています。
金沢国税局
https://www.nta.go.jp/about/organization/kanazawa/release/h30/hojin_gensen/index.htm
高松国税局(四国4県)
https://www.nta.go.jp/about/organization/takamatsu/release/hodo/hodo_30/hojin_shinkoku/09181008.pdf
申告した法人の数が増加
税務署に申告した法人の数は、前年度の約286万社から3万5千社増えて、約289万社とのこと。
休業や休眠している法人を除いた申告している法人の数が、1.2%増えているということになります。
平成30年6月30日現在の法人数は、全国で310万社(清算中の法人を除く)であることから、全国で21万社(約6.7%)は、休業などを理由で実質的に活動していないということになります。
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
法人の所得金額は8年連続増加し過去最高
法人の儲けである所得金額の総額は70兆7,677億円となり、前年度よりも約7兆3,000億円増えて、7年連続で上昇し、バブル期を含めて過去最高となりました。
同時期に財務省が公表した法人企業統計によると、 企業の内部留保(金融・保険業を除く全産業の利益剰余金)が446兆4844億円と前年度比9.9%増えて、過去最高となったとのニュースが新聞記事に載っていましたが、それを裏付ける結果となっています。
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
申告して法人税等の納税をした法人は微増
申告した法人のうち、法人税の納税が発生する黒字として申告した法人は、 前年度よりも4.1%増え約99万社となりました。
さらに、公表資料の中で「黒字申告割合」が34.2% と記載されております。
ただし、これは全国の法人のうち約34.2%の会社が黒字で、残りの65.8%の法人は赤字となっているわけではありません。
今年度は黒字にもかかわらず、過去の赤字(繰越欠損金)を控除した結果、所得金額が0円となっているということもあり、これらの法人も黒字申告法人となっていないのが理由です。
この「黒字申告割合」の34.2%の数値を引用して、65.8%の法人が赤字であったとの記事を見ることがありますが、青色申告法人の欠損金は、その後9年間(平成30年4月1日以降に開始する事業年度については10年間)繰越して、その後の事業年度の黒字を控除(相殺)することができますので、赤字申告の法人のうち相当数が、単年で黒字になっており、単年度で黒字の法人の割合は50%に近い数字であると予想されます。
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
法人税の税収は12兆4,730億円も8年連続増加
法人税の税収は前年度に比べて1兆2,358億円(11%)増えて、12兆4,730億円に達したとのこと。
同時に納税する地方法人税も同様に増えているため、合計で1兆9,010億円の税収が増えたとのことになります。
あまりにも桁違いな金額なので少しでも実感がわくように解説すると、日本の借金が1000兆円、政府内の資産が500兆円、政府関係法人の資産が300兆円あると賛否両論ある中でいわれており、日本の純粋な借金が差額の200兆円であると仮定すると、法人税と地方法人税の税収合計13兆1,267億円の約15年分の借金を、背負っているということになります。
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
給与所得に係る源泉所得税の税収は3.4%アップ
法人の役員も含めた従業員の給料や賞与から差し引かれた源泉所得税の税収は、3.4%アップの10兆4,858億円になり、源泉所得税のトータルでの税収も2年ぶりに増加し、17兆379億円となりました。
これも、純粋に給与や賞与の金額が増えただけではなく、 年収1,000万円を超える 給与所得控除の縮小による増税の影響も考えられます。
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
投資関係の源泉所得税の税収が大幅アップ
(国税庁発表資料より一部抜粋して引用)
今年の10月まで続いた世界的な株高や企業業績の好決算などの影響で、配当所得や特定口座での株式譲渡所得に係る源泉所得税の税収が大幅に増えています。(特に株式譲渡所得は2.37倍に増加)
最近口座開設数がとても増えているNISA(ニーサ)やiDeCo(イデコ)で証券会社などに口座を開設した方が、低金利の金融機関へ預貯金をやめて、あわせて開設した特定口座においても、株式や投資信託での運用を始められている方が、最近特に増えているように実感しています。
業務の多忙や不動産関係の資格試験を受験する関係で、しばらく新規投稿ができませんでしたが、当ブログの月間のアクセス数も、少ない投稿にもかかわらず、月間3万PVを超えてきており、実際にお会いする方からもの反響(苦言も含む)を頂いております。
少しはお役に立てているという実感(のみ)を原動力に、これからも年末に向けて少しずつですが、投稿してまいります。
投稿者プロフィール
- 盛永崇也(東京の神田で開業している税理士/行政書士事務所の代表)
「税務相談/税務顧問や経理経営支援/法人申告・確定申告・給付金申請・相続手続の代行/法人設立や廃業支援や代行」など、法人個人を問わず、お金にまつわる様々なサポートをさせて頂いております。