毎年の確定申告のご依頼の中で、計算方法により税金の金額に大きな違いがでることが多いのが、不動産を売却された年の翌年春にする「譲渡所得の確定申告」。
その中でも特にご相談が多いのが『売却した不動産の購入当時の金額が記載してある売買契約書が見当たらない・・・』『相続した後に売却した不動産や株式の両親が購入した金額がわからない・・・』などの理由で、確定申告に困っているという切実なご相談。
ご自分で、国税庁HPや税務署に問合せして調べたところ、取得費が分からないときは「売却額の5%を取得費として計算する」とされているみたいだけど・・・
そこで、この5%取得費で税金を計算してみたら、想像以上の税金にビックリという方が多くいらっしゃいます。
このような方のために、ご相談の方にいつもお話している対処方法や、「売却額の5%以外の計算方法」について、なるべくわかりやすく解説します。
購入当時の状況を考えると、明らかに売却額の5%以上で購入したという方は、実情になるべく近い金額での申告ができるように、この記事を参考にして、あきらめずに一度は、5%取得費以外の方法を検討してみて下さい。
【基礎知識】譲渡所得にかかる税金の計算方法
まずは、不動産を売却した場合にかかる税金の計算方法について、なるべく簡単に解説します。
譲渡所得の対象となる資産とは?
不動産(土地・建物・借地権・建物附属設備・構築物)・株式・公社債・金地金・宝石・骨董品など
譲渡所得の計算方法
譲渡価額とは?
不動産が売れた金額(収入金額)に、あわせて受け取った「未経過固定資産税等の清算金」を加算した金額となります。
なお、離婚して不動産を渡した(財産分与)場合には、分与時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。
取得費の金額とは?
下記の合計額とされています。
ただし、建物は「減価償却費相当額(購入時から売却時までの価値減少額を計算した金額)」を差引いた金額としなければならないこととなっています。
- 資産の購入代金
- 購入時の仲介手数料
- 購入時の登記費用(非業務用資産に係るもの)
- 設備費
- 改良費(通常の修繕費を除く)
ここで注意したいのは、
相続・遺贈・贈与により取得した不動産は、原則として前所有者の取得費を引継ぎますので、仮に父から相続した不動産を売却した場合には、父が購入した代金により計算することになります。
(タダでもらったので、取得費0円とはなりません)
譲渡費用とは?
下記のような売却にかかった費用が譲渡費用として、差し引くことができます。
- 売却時の仲介手数料・測量費・収入印紙
- 貸家の売却時に借家人に支払った立退料
- 土地などを売るために建物を取り壊したときの費用とその建物の損失額
- 既に売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
- 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
上記の他に、売却のための広告費や土壌調査費用など、売却のため直接にかかった費用が該当します。
特別控除とは?
主に下記のようなものがありますが、この特別控除を適用するためには、確定申告する必要があります。
したがって、特別控除により譲渡所得の金額が0円となり、税金の納付がない場合でも確定申告は必要となります。
(1,000万円で購入したマイホームを3,000万円で売却した場合など)
- マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売った場合の3,000万円の特別控除
- 平成21年・22年に取得した国内の土地を譲渡した時の1,000万円の特別控除
- 公共事業などのために土地や建物を売った場合の5,000万円の特別控除 など
譲渡所得の税率は?
不動産(土地・建物など)を売却したときは、譲渡所得の金額に下記の税率を乗じた税金がかかります。
※優良住宅地の造成等のための譲渡の課税の特例に該当する土地等については、別途税率の軽減があります。
取得費がわからないときは「売却額の5%計算」は強制?
売却額の5%は強制?任意?
国税庁のHPには、下記の通り取得費がわからないときには、5%相当額を取得費とすることが『できます』と明示されています。(この計算方法のことを、専門用語で「概算取得費」といいます)
わかりづらいのですが、『できます』とは『しなければならない』とは、意味が違います。
この『できます』は、「強制」ではありません。
『できます』とは「任意」であり、それ以外の合理的な方法により計算することが、暗に認められているということになります。
したがって、不動産を購入した当時の金額がわからない場合や、実際の金額が記載された売買契約書などの証票類を紛失してしまった場合には、概算取得費(譲渡価額✕5%)ではない方法で計算した確定申告も認められているのです。
ただし、どんなケースでも認められる訳でなく、合理的・客観的な計算根拠が必要となります。
譲渡所得の金額は「所得税・住民税」だけでなく、翌年の「国民健康保険料・介護保険料」や「配偶者控除など」にも影響します。
繰り返しになりますが「購入当時の状況を考えると明らかに売却額の5%以上で購入したという方」は、あきらめずに一度は、下記の対処方法を参考にして、5%取得費以外の方法を検討してみて下さい。
取得費がわからない場合の対処方法・計算方法
では、売却した不動産の購入当時の金額がわからない場合には、どうしたらよいのでしょうか?
概算取得費(譲渡価額✕5%)による計算は、売却価格さえわかれば簡単に計算できるのですが、明らかに5%以上で購入しているときには「税金を過払いする」こととなってしまいます。
このような方は、下記の対処方法を検討してみて下さい。
初めに申しておきますが、以下の計算方法を税務署で指南を受けることは、まず期待できないのが実情です。
より税務署に相当の根拠があると認められるような計算書類の作成や、正確な判断を求めるためには、お早めにお近くの税理士へのご相談をオススメします。
【注意】
- 下記の方法による金額のうち、一番有利な大きい金額での計算ができる訳ではありませんのでご注意下さい。
- 法人である不動産業者が100万円以上の不動産等の売買や仲介をした場合には、取引金額などの情報を記載した「支払調書」という書類を取引の翌年1月までに、税務署に毎年提出する義務があるため、国税庁のデータベース(国税総合管理KSKシステム)に、売買代金がすでに登録されている可能性があります。
【その①】不動産業者に売買価格がわかる書類を発行してもらう方法
これは、一番初めに確認すべき方法で、購入当時の不動産業者が今でも営業している場合には、不動産業者に実際の購入価格を問い合わせるという最良な方法です。
不動産業者は、宅建業法で過去10年間の契約書の保存義務があるだけでなく、それ以上前の書類も保存してあることも多くあります。
保存してある場合には、売買契約書のコピーを依頼すれば問題はすべて解決することになります。
仮に、不動産業者が契約書などの書類の保存はなくても、取引価格をデータとして記録してあるケースもあるため、多少の手間や手数料がかかったとしても、購入価格を証明する書類を発行してもらう方法もあります。
【その②】チラシやパンフレットなどにより計算する方法
売買契約書はなくても、購入当時のチラシやパンフレットなどが残っているケースがあります。
特に、新築マンションの場合には、管理組合に分譲当時の価格が記載されているパンフレットが保存されていることが多くありますので、一度確認してみると良いでしょう。
もし、無事に入手できれば、これらにより計算することができることがあります。
【その③】ローン金額により計算する方法
売買契約書は紛失していても、権利証とともにローンの金銭消費貸借契約書・返済予定表が残っているケースもあります。
ローンは、原則として購入価格以上の融資はできないため、頭金0円でフルローンのケースでは、これらの書類により購入価格を計算できるケースがあります。
(その他、住宅ローンの入金や支払いがある通帳などにより、計算できるケースもあります)
ただし、頭金を支払っているケースでは、正確な計算は難しいという欠点があります。
【その④】登記事項証明書により計算する方法
日本国内の不動産を売買した場合には、ほぼ必ず法務局に登記をする制度になっています。
不動産をローンにより購入している場合には、抵当権が設定されることになっており、法務局で入手することができる「登記事項証明書」の乙欄には、借入金額・利率などの情報が記載してあります。
これらの情報により、購入価格を推察して計算できるケースがあります。
【その⑤】購入当時の記録などにより証明する方法
不動産全体の価格がわかるものはなくても、手付金などの領収書・親族からの借入の念書・購入当時の計画メモなどが残っているケースもあります。
これらのいわゆる素面資料により、購入価格を推察して計算できるケースもあります。
このような一部の情報により購入価格を推察して計算する場合には、独自の計算書類の他に、申告する本人の「確約書」などを別途作成して自署押印の上で、確定申告書に添付して提出するのが望ましいと思います。
【その⑥】市街地価格指数などにより計算する方法
これ以降は、国などが公表している不動産の変動指数などを利用して、購入価格を推察する方法となります。
土地については、一般財団法人日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」の変動率を基にして、当時の購入価格を推察して計算します。
(市街地価格指数とは、全国主要都市で選定された宅地の調査地点について、日本不動産研究所の不動産鑑定士等が価格調査を行い、指数化して公表しているものです。)
計算方法は、簡単にいうと、購入時と現在との指数の変動率を計算して、売却価格をこの割合で割戻すことにより、購入当時の取得費相当額を計算することになります。
建物については「着工建築物構造別単価」を基にして計算された、税務署が公表している「建物の標準的な建築価格表」に記載してある建築単価などを参考にして、建物の床面積から「取得費」を算定して、購入時から売却時までの「減価償却費相当額」を控除した金額により取得費を計算します。
これらを用いて取得費を算出することで、概算取得費の計算方法よりも、実際の金額に近い正確な取得費を算出でき、結果として、譲渡所得の金額を抑え、税金の過払いを防ぐ効果が期待されます。
ただし、この方法で算出された取得費はすべてのケースで認められているものではなく、算出するためには下記のような一定の条件を満たす必要があるとされています。
市街地価格指数を利用できるケース
- 購入当時の価格や購入履歴を証明できる資料がないこと
- 土地の所在する地域が主要都市であること
- 土地の地目が、取得時から現在まで「宅地」であること(田・畑・山林・原野・雑種地などは計算できない)
- 市街地価格指数の査定の対象となっている地域と評価対象地の地域とが類似していること
- 土地が所在する地域の路線価や公示地価などの地価が、指数と同じ水準で推移していること
具体的な条件確認方法
- まずは、現在と過去の登記事項証明書を法務局にて入手し、購入当時からの地目を確認します。
- 地目の条件を満たす場合には、国会図書館などで当時の路線価を入手して路線価の変動率を計算するとともに、国土交通省が公表している公示価格の変動率をあわせて計算します。
- そして、市街地価格指数の変動率との変化を確認することになります。
なお、今までの経験上ですが、この計算方法は、昭和40年頃よりも前に購入した不動産の場合には、概算取得費よりも不利な計算になるケースが多くありますので、事前にご確認下さい。
算出方法の計算例
- 昭和60年に購入した土地のみを令和4年に「4,000万円」で売却
- 土地の昭和60年当時の市街地価格指数が「50」
- 令和4年の市街地価格指数が「80」
①譲渡所得(市街地価格指数による)
当時の購入価格は「2,500万円(4,000万円÷80✕50)」となり、譲渡費用が0円ならば、売却益である譲渡所得の金額は「1,500万円(4,000万円-2,500万円)」となります。
②譲渡所得(5%概算取得費による)
購入価格は「200万円(4,000万円✕5%)」となり、譲渡費用が0円ならば、売却益である譲渡所得の金額は「3,800万円(4,000万円-200万円)」となります。
計算方法による差額の税金
計算方法による譲渡所得の金額の差額は「2,300万円(②3,800万円-①1,500万円)」ということになります。
税率は、上記に記載の通り、おおよそ20%(所得税15%+住民税5%)なので、税金は『460万円(2,300万円✕20%)』も変わることになります。
【その⑦】路線価や公示価格により計算する方法
路線価とは
国税庁が毎年7~8月頃に公表するもので、主要道路に面した1㎡あたりの土地価格で、相続税や贈与税を計算するときに使用されるものです。
(路線価は、現在は公示価格の80%程度で、平成3年以前は公示価格の70%程度で評定された金額とされています。)
公示価格とは
国土交通省が毎年3月に公示しているもので、都市計画区域内で標準的な土地を選定し、毎年1月1日時点の1㎡当たりの土地の価格で、昭和45年以降分がネット上で公表されています。
計算方法
路線価や公示価格の変動指数を利用して、購入価格を推察する方法となります。
土地については、簡単にいうと、「路線価や公示価格」の購入時と現在との変動率を計算して、売却価格をこの割合で割戻すことにより、購入当時の取得費相当額を計算することになります。
建物については、「着工建築物構造別単価」を基にして計算された、税務署が公表している「建物の標準的な建築価格表」に記載してある建築単価などを参考にして、建物の床面積から「取得費」を算定して、購入時から売却時までの「減価償却費相当額」を控除した金額により取得費を計算します。
ただし、この方法で算出された取得費も、すべてのケースで認められるものではなく、算出するためには下記のような条件を満たす必要があります。
路線価指数を利用できるケース
- 購入当時の価格や購入履歴を証明できる資料がないこと
- 路線価の制度開始の昭和30年以降に購入したものであること
- 購入から現在まで路線価が設定されている土地であること
購入当時の路線価の調べ方
路線価という制度は、昭和30年より開始され、直近7年分は国税庁HPにて公表されています。
ただし、残念ながら、過去7年よりも前の路線価は、ネット上には存在しません・・・
過去7年よりも前の路線価を確認したい場合は、国立国会図書館にて、その年の「財産評価基準書」を閲覧することができます。(公立図書館でも閲覧できることがあります)
【その⑧】不動産鑑定士に取得費を算出してもらう方法
上記の他に、平成以降に購入した不動産のケースでは、不動産鑑定士に過去の取得費を算出してもらう方法がありますが、その場合には別途費用と時間が必要となります。
【最後に】
取得費がわからないが、5%の概算取得費以外の方法での確定申告は、必ず認められるというものではないため、我々専門家である税理士でも、不動産の所在地の法務局に昔の登記簿を入手することから始まり、その後にネットで公開されていない購入当時の路線価などを入手したりと検討するだけでも、かなりの手間と時間を要します。
税務当局に否認されることのないように、なるべく多くの合理性と妥当性がある資料を準備して、確認し検証するだけでなく、より正確な根拠により実際の購入金額により近い取得費を算出して、確定申告書を作成して、根拠書類とあわせて提出する必要があるからです。
もし、このようなケースでお困りの方は、確定申告の受付期間になる前に、一日でも早く、お近くの専門家である税理士へご相談されることをオススメ致します。
両親が亡くなり、相続した実家である不動産を売却されて、確定申告で困っている方から、ご依頼やご相談を受けることが毎年数多くあります。
その中には、地方の不動産をお売りになった方が特に多いのですが、実際の売却価格が、昔に購入したであろう価格とほぼ同じであったり、逆に売却損になっているであろうという方が、多くいらっしゃる印象です。
今回の記事は、私自身の確定申告の業務資料の一部を、できる限り公表できる範囲内で文書化して記事にまとめたものです。
当事務所では、お引き受けできる件数も限られるため、この記事が、このようなお悩みの方の一助になることができれば幸いです。
毎年12月を過ぎる頃になると、この記事を見た方から、多数のお問合せを頂いておりますが、ご相談やお申込みにつきましては、下記の特設サイトの『お申込みページ(初めての方)』ページよりお願い致します。
なお、ご依頼料金につきましては『料金30秒簡単お見積り』ページにて、事前にご確認下さい。
当事務所の「個別相談サービス(公式サイト)」
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投稿者プロフィール
- 盛永崇也(東京の神田で開業している税理士/行政書士事務所の代表)
「税務相談/税務顧問や経理経営支援/法人申告・確定申告・給付金申請・相続手続の代行/法人設立や廃業支援や代行」など、法人個人を問わず、お金にまつわる様々なサポートをさせて頂いております。